ここ数年、エネルギーキャリアとして、液体アンモニアが大変注目されています。
ニュースなどでみたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?今回は、エネルギーキャリアとしてアンモニアが注目されている理由について、これまでアンモニアの研究・開発に従事してきた私が、わかりやすく解説していきたいと思います。
まず最初に、要点だけまとめておくと
- 地球温暖化を抑制するため世界的にCO2削減のニーズがある
- 現在日本におけるCO2直接排出量のうちエネルギー転換部門が約40%
- CO2排出割合の多い発電方法をCO2フリーな再生可能エネルギーに変換したい
- 日本は地形的に再エネの課題が多いため、コストが高くなってしまう
- 海外で低コストな再エネで作られた水素を日本に輸入してエネルギーとして使うことでCO2削減を狙いたい
- 水素を一度に大量に輸送するには、液体化する必要がある
- 水素を液体化するには、極低温まで冷却し、高圧にしなければならないため、コストが高くなる
- 水素を含有するアンモニアは容易に液化可能であり、水素に比べてエネルギー密度が高いため輸送に適している
⇨ 液体アンモニアがエネルギーキャリアとして有望視されている
この記事を読むことで、液体アンモニアがなぜエネルギーキャリアとして注目されているか?を知ることができます。
カーボンニュートラルな社会に向けてCO2削減のニーズが高まっている
2020年10月26日に当時の首相であった菅総理大臣より2050年までにカーボンニュートラルを実現するという宣言が発表されました。首相官邸HPより
これは、地球温暖化が深刻化している事態に対して世界的に温室効果ガスであるCO2排出をゼロにしましょうという風潮に沿って出された宣言となりました。これまでは、CO2削減量について言及するのみで実質的にCO2の排出をゼロにするというところまでは言及されていなかったため大変なインパクトでした。
日本のエネルギー事情
日本はCO2を排出する火力発電が全体の75%以上を占める(2019年度)
日本国内におけるCO2排出量のうち約40%は、発電所などを含むエネルギー転換部門が占めています。
さらに下図の発電方法の内訳を見ると、発電時にCO2を排出するのは火力発電のみですが、その火力発電が全体の75%以上を占めています。
一方で、CO2を排出しない発電方法として期待されている再生可能エネルギーは18.1%となっておりなかなか進んでいないのが実情です。
日本で再生可能エネルギーが普及しない理由3つ
日本で再生可能エネルギーが普及しない原因は、シンプルにコストです。
再エネの普及が進んでいる欧州と比べると再生可能エネルギーで発電した場合の電力コストは2倍以上と言われています。
日本で再エネのコストが高くなる要因としては、3つの要因が考えられています。
・再エネには大規模な土地が必要だが、日本は平野部が少ないため大規模な再エネ設備を建設しにくい
・地震や台風などの地理的な要因による対策によって、再エネ設備を建設するのに必要な工事費が高くなる
・発電メーカから発電事業者に至るまでの流通構造が複雑であるため設置にかかる費用が高くなる
再エネで作った水素(H2)における課題
水素を高圧タンクに詰める方法は効率が悪く輸送費が高くつく
日本国内における再生可能エネルギーにはコストの課題があることがわかりました。
そこで出てきた考え方が海外の安い再エネから水素を作り、水素を日本に大量に輸入する考え方です。
大量の水素ガスを輸送する方法は大きく二つ考えられています。1つ目は水素ガスを高圧タンクに詰めて輸入する手法です。こちらは高圧のガスタンクに入れて輸送する方法ですが、あまりに効率が悪いためかえって輸送費が高くついてしまいます。
そこで内閣府が進めているのが、2つ目の水素を液体や水素化合物などのエネルギーキャリアとして効率的に貯蔵・運搬する方法の研究・開発です。
水素をエネルギーキャリアで運ぶ3つの方法
内閣府が現在提案しているエネルギーキャリアは主に3つです。
- 液化水素
- 有機ハイドライド
- アンモニア
この中で、アンモニアが有望とされている理由を下記に記載しておきます。
エネルギーキャリアとして液体アンモニアが有望視される理由3つ
エネルギーキャリアとしてアンモニアが有望視されている理由は大きく3つあります。
- 単位体積あたりの水素含有量が他のエネルギーキャリアに比べて多い
- 液体にする条件が常温でも8.5気圧と比較的マイルド
- すでに農業分野などで流通しているため既存の流通インフラを利用できる
上記の理由からエネルギーキャリアとしてアンモニアが有望視されていると言えます。
まとめ:水素密度が高く安い条件で貯蔵・運搬可能な液体アンモニア
カーボンニュートラルを達成するために再生可能エネルギーの導入を進めたい日本ですが、地形や産業構造のなどの課題によりなかなか普及が進みまないため、海外で安く作った再生可能エネルギーを日本に輸入する方法としてエネルギーキャリアが注目されており、その中でも液体アンモニアは単位体積あたりの水素密度が高く、低コストで貯蔵・運搬が可能な方法として有望視されています。
アンモニアには他の課題もありますが、今後の動向も目が離せない状況となっています。
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